【感想】映画を早送りで観る人たち(著:稲田豊史/光文社新書)

読書

不意に目に飛び込んできた気になるタイトル。映画を早送りで観る…だって?最近の若者は、NetflixやAmazonプライムなどで映画を視聴する際に、冗長だと感じるシーンは平気で早送りして鑑賞しているそうだ。映画好きな自分としては全く理解しようのない行動だが、ふと自分のエンタメとの付き合い方を振り返ってみると、特段おかしい行動ではないと気づいたのである。

早送り=オタクに憧れているため!?

ネットで簡単に情報を得られる時代において、広く浅く知っているだけの人間では周りに埋もれてしまう。オタク=特定領域に深い造詣を持つ人のほうが、個性的で魅力的であり、今や若者にとって憧れの対象なのだ。就活生は自己PRでは個性的であろうと装うし、社会人は替えの効かない人材になろうとする。筆者の言葉を借りるなら、ジェネラリストではなく、スペシャリストを目指しているのである。

しかし、変化の激しい現代において、のんびりと知見を磨いていくわけにもいかず、特に若者たちはタイパ/コスパを意識し、短時間で大量の情報を得ようとする。つまり、「早送り」は効率的に個性を磨く手段の一つに過ぎないのである。

わからない=つまらない

その意味で、映画やドラマの作品に無駄な部分があれば、早送りしても構わないと感じる若者が増えた。長回しで映し出される俳優の表情や、荘厳な風景を映し出すといった”間”も作品の色、匂いを伝える重要な要素であって無駄ではない。しかし、そんなことはどうでもよくて、登場人物たちが結果的にどうなり、実際になにを感じているかの方が重要なのだ。効率的に情報を得たい人々にとって、詳しく説明してくれないと、わからないし、つまらないのだ。

そんな視聴者に配慮して、最近の作品には「説明過多」なものが増えた。本著では「鬼滅の刃」が例として挙げられている。見ればわかるものを、いちいち台詞で説明する。そうでもしないと、たちまち早送りされ、つまらない判定を下されてしまうのである。

ネタバレを見てから作品を鑑賞する人たち

一時期、「ファスト映画」というものがYouTubeで飛躍的に伸び始めた。2時間の映画を5〜10分にまとめ、重要な要素だけ(という幻想のもと)説明するのである。(←もちろん許可なしに公式の画像や動画を利用して収益を得るこれらの行動は違反である。)これは先に述べた、効率的に作品の結末を得られる満足感を狙ったものである。単純にあらすじを知ってから作品を鑑賞したい人が増えたのだ。誰が犯人で、誰が死ぬのか。誰と誰が恋に落ち、最終的にハッピーエンドであるのか。ネタバレを見ることによって、自分が興味あるものなのか、必要な情報であるかを見極めるのだ。


【感想】早送りは言語道断?いや、そうでもない。

早送り視聴なんて製作者に失礼だし、その作品の本来の意図を理解できないのではないか。本著を読むまでは、そう思っていた。しかし、自分の日々の行動を振り返ると、かくいう自分もタイパ主義であることに気づいた。オーディブルで本著を聴くときも倍速であったし、YouTubeも導入でつまらないと感じたら最後まで見ずに次の動画をクリックする。音楽だって気に入った箇所だけ何度も聞いたり、漫画のアクションシーンもさっと目を通すだけ。細かい描写まで目に留めない。

カウンター越しにネタを握るところから楽しめる寿司屋は特別なときだけで、普段は次から次へとやってくる回転寿司屋で良い。もちろんこれは我々のお財布事情も関わってくることではあるが、要は何に重きを置くかによって人々の楽しみ方は違うということなのだと思う。

私(ペリドット)は映画館でゆっくりと余韻を楽しみたいタイプである、というだけ。それに2000円を払う価値を感じている。本著で筆者が述べているように、映画をテレビで観ることだって製作者の意図とは違うかもしれないし、音楽だって生演奏じゃないと感じ取れない余韻があるかもしれない。しかし、それは受取手次第であり、他人の趣味嗜好にとやかくいう権利などない。映画の早送りだっていつの日か、当たり前のことになり得る可能性だってある。

そういう意味で、効率化にはビジネスチャンスが無限に広がっている。大手遊園地のアトラクション有料入場券然り。飲食店や映画の評価サイトの閲覧もこれに乗じている。我々は「面白い」「美味しい」「観る価値がある」というお墨付きを日々求めている。とにかく、面白いコンテンツをいかに効率よく消費するかが現代を生き抜く術なのかもしれない。

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